加えて、昨夏から何かと話題の年金の記録不備問題。社会保険事務所から年金アドバイザーを委嘱され、月に何日かは手足を縛られる。社労士にとっては受難の時代なのだ。
その合間を縫って、川柳の会にも出席。昨日は、「高浜文協川柳会」の月例句会。 そして今日は、「桜まつり協賛 春の市民川柳大会」(岡崎川柳社主宰)。
社労士業務の傍ら川柳をやっているのか、川柳の傍ら社労士業務をこなしているのか判らない状態。「二兎を追うものは一途も追えず」とはよくいったもので、本末転倒の様相を帯びてきた。 ということで、今日の川柳大会は散々な結果。事前投句を含めた八句の内、入選はたったの一句。過去最低の出来に、思わず知らず、笑ってしまった。 貧しさもあまりの果ては笑い合い 雉二郎 文豪・吉川英治の川柳作家の頃の作品だが、人生のおかしみと悲哀を余すことなく物語っている。社労士業務は、人に関わる仕事。川柳同様、人への思いやりを軸に、業務を持続させたい! さて、今日の入選作。あまりうまくない! 離職票みんなさびしい列に付く (兼題「列」)
【社員の主張】 私用のため有給休暇を申請したが、有給休暇の残日数はないと拒否された。労働基準法の付与日数からすると、まだ残っているはずだ。
【社長の主張】 当社の就業規則で与えている有給休暇はすでに消化しているので、その日は欠勤したものとして扱う。
社員からすると、もらえるはずの年次有給休暇がまだ残っているにもかかわらず、もらえないのは納得できない、労基法違反ではないかというもの。
一方、社長の言い分は、就業規則で定めている有給休暇の付与日数分はすでに消化しているから、これ以上与える必要はないということ。
労使双方、かなり感情がエスカレートし、下手なことを言おうものなら発火しそうな雰囲気。法令に照らせば、どちらの言い分が正しいか火を見るよりも明らかだか、単に法律論で片付けるのは安易な方法だと思った。
当時、度重なる労基法の改正で、年次有給休暇の初年度付与日数は、6日から8日、さらに10日に引き上げられ、また最初の付与時期が1年から6ヶ月に短縮されていた。 会社にとっては、40時間労働制への移行に加えて、年次有給休暇の日数引き上げで、労務費率が上昇し、経営に大きな負担となっていた。しかも、バブル経済がはじけ、不景気風が吹き荒れる中である。 事業主にとっては、有給休暇を頻繁に使う者は、目に余る存在だったに違いない。労働省(当時)に対する恨み(逆恨みであることを理解しつつも)を覚えて、事業場の就業規則の正当性を訴えたのかもしれない。その気持ちはよく理解できるが、法は法である。 双方の言い分を聞いてから、一旦社員には職場に戻ってもらい、社長には、この問題の本質である労基法第92条の内容を伝えた。 労基法第92条(法令及び労働協約との関係) @就業規則は、法令又は事業場において適用される労働協約に反してはならない。 A行政官庁は、法令又は労働協約に牴触する就業規則の変更を命ずることができる。
労基法を下回る年次有給休暇を就業規則で規定しても、その部分は無効となり、事業主は、労基法どおりの年次有給休暇を与えねばならないこと。さらに、労基法で定める労働条件は最低の基準なので、それを下回ってはいけないこと等々。 その際、労務管理の勘所を押さえる意味で、こんな話をした。 「労働条件で社員さんが社長に言ってくることには2つあります。ひとつは“要求”、もうひとつは“要望”。要求は、法律を背景にしています。法律どおりの労働条件を求めて社員さんが主張するわけです。 例えば、現在、愛知県の最低賃金は、640円(当時)です。640円を下回る時給で働いているパートさんが640円の時給を求めるのは要求です。払わなければいけません。 それに対して、要望には法的な根拠はありませんので、パートさんが時給700円を求めても、最低賃金を満たしているのであれば、雇入れ時に取り決めした金額しか払いませんと、拒否することができます。 今回、社員さんが法定どおりの有給休暇を求めるのは要求ですので、就業規則と違っていたとしても与えてください。そして就業規則の方を直しましょう」 その日、就業規則を借りて点検すると、法令に違反する箇所があったり、逆に法的な根拠のない部分を手厚く保護したりと、ちぐはぐな印象を否めなかった。その中で、慶弔休暇の賃金の取り扱いを、有給としていた点を拾い上げ、社長に提案。 「有給休暇は法定どおり与えることにしましょう、これは要求の部分ですから。しかし、慶弔休暇を有給にするのは法的根拠がありませんから、社員さんの同意を得た上で、今後は無給とする方向で検討しましょう。慶弔休暇を取った日に労基法第39条の年次有給休暇を使用するのは構いませんが」
元々、会社では慶弔休暇を有給と定めていながら、実際は年次有給休暇として処理されていた。その件を詫び、現状の労務比率の上昇を正直に説明した。 社員の方々も理解してくれ、慶弔休暇日を無給にすること、そして昨年分からの年次有給休暇を法定どおり与えることで決着した。
今思うと、社員にとっては不利な提案だったが、理解を示してくれたのはそれまでの会社の労務管理にさほど不満がなかったからだろう。労使紛争は、それまで蓄積されていた社員の不満にあるきっかけが引火して暴発するもののようである。 あれから十数年の歳月が流れ、会社も50人ほどの規模になった。有能な後継者が育ち、永続的に収益の出せる企業体質となってきた。早い時期に、無給とした慶弔休暇を有給にするよう提案するつもりでいる。 当時からするとコンプライアンス(法令順守)が声高に言われるようになり、法令順守が企業の生命線を握るまでになった。労基法違反は、企業にとって命とりになる時代である。 昨年、岐阜県内の経営者に会う機会を得た。名物オーナーとして著名なその方に、社長の仕事について教えてもらった。「社長の仕事は、社員の不安、不満をなくしていくこと。そうすると、会社は薄皮を剥ぐように良くなっていく」と話された。 社員の不安、不満をなくすために、一層の提案に努めなければいけないことを痛感したのである。
@労務を管理する立場にある A経営者と同じような立場で判断できる B勤務時間や休暇などの規定にしばられない C一般社員と比べて賃金面で充分に優遇されている