手元に松下幸之助翁の言葉がある。 何の後ろ盾もなく、零細な家内工業から出発して、繰り返し破滅の危機に直面しながら、すさまじい人生闘争を繰り返しつつ生き延びてきた、強靱な精神力を表わす発言である。 一度聞けば忘れられないほどの衝撃を受ける。
ある町が水害で、すべてを流出した。隣町は何の被害もなかった。 10年後、被害を受けた町は例外なくすべて発展している。 火事で全部燃えてしまった町も同様である。これも全部発展している。
災害を受けなかった町は、発展しない。恵まれたと思ったところは、実は恵まれていない。 悲惨な状況に突き落とされた町が、10年後には数倍の発展をする。
これは何が原因であるか。私は心の問題であると思う。 これは復興しなければならないという、人々の心の働きによって変わってくる。 悲惨な被害が、その後の発展の起因となる。
私の今までの体験からいえば、不景気に直面しては発展し、何か事故が起こっては発展してきた。大きな災害が起これば、「ああ困った」と動転するのが人情である。 だか翌日になると、考え直す。あわてるな、待て待て。 ああいうことをやっていても解決しない。この際このように立て直そう。 (日経新聞・ニッポンの企業家 作家・津本陽氏の小文を引用させて頂きました)