あおみ労務事務所
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随想
「晴耕雨読」という言葉を、今しみじみ味わっています。
「晴れた日には畑を耕し、雨の日には読書する」すこぶる人間らしい気がします。
宮澤賢治が「雨ニモマケズ 風ニモマケズ・・・」と手帳に記したように、このページでは、心に浮かぶままの考え・感想や日常での出来事、変わりゆく景色などを、詩やエッセイなどの形で、気軽に綴っていきます。
2006.05.25(Thu)
過ぎればロマン

刈谷文協誌「群生」の編集を担当している塚本さんからご自身の著書を頂いた。

随筆集「過ぎればロマン」と童話集「花まつり」。

「今まであちこちに書き散らして来た拙文を整理し、1冊にまとめてみようと思い立ってから10年、ようやく実現することになった」と塚本さんがあとがきで書くように、人はたどってきた足跡を整理するには十分な時間が必要なのだろう。

塚本さんとのつきあいは20年近くになる。
知人から「群生」を紹介されて、随筆部会長である塚本さんに初めてお会いしたのが、昭和63年だったと思うが、塚本さんの作品はどれもが硬質で、しかしその奥底には甘酸っぱい香が立ち込めている。例えばこんな文章。

「私達はそこで別れた。中門を出て私が先に行く。振り向かない約束だったが玉砂利の境内を山門まで来て振り返ると、門柱を背にコートの衿を深くたてて動かずに居るその肩に冬の薄日が射し、その淡い光の中に,又ひとしきり雪が舞っている。しばらくそれを眺めてから私は、仁和寺の山門をくぐって、底冷えのする街路を歩き出した」(雪の日)

いいですねぇ、生へのキラメキが雪のように舞っている。
こんな文が書ければいいのに・・・。
憎いことに塚本さんは、あとがきの中にこんな句を記している。

  過ぎゆけば全てはロマン春の雪

下五を変えればすべての季節に合わせられる・・・?



2006.05.14(San)
川柳七句

てっぺんに初夏が座っている遊具

夢の続き滑り台から降りてくる

トロッコの何か淋しい人に似て

遊園バスに乗ると海からくる匂い

鉄棒の上のまあるい空といる

群青の空で群れてる観覧車

長い長い滑り台から湧いた雲


2006.05.07(San)
湧水の町

行って来た、行って来ましたよ、心癒される湧水の町・郡上八幡!
“美しきせせらぎ散歩”とやらに、しばし心を傾けました。

「いがわ小径」は、民家の間を縫うように走る水路。
近場の人が野菜を洗ったり、冷やしたりするその急流に、岩魚やアマゴ、鯉が泳いでいた。
この町で生活する人には、小径ではしゃぐ旅人を理解できないのかもしれないナ。

「宗祇水」は、日本名水百選の第1号に選ばれた名泉。
こんなにうまい水がタダで飲めるこの町は、何て贅沢なところだろう。
その昔、連歌の名匠・飯尾宗祇がかたわらに庵を結んだことから、この名が付けられた。
柄杓に自然の冷水を汲んで、もったいない事に一息で飲み干した。

その他、郡上八幡には、郊外に大滝鍾乳洞を持ち、落差30bの神秘の大滝が有名だ。
郡上八幡城からは町並みが一望のもとに見渡せる。
その町の片隅に慈恩禅寺庭園・てつ草園が静かに眠っている。
岩山を借景にした新緑の見事さに、思わず唾を飲み込んだ。
紅葉の頃はどれほど綺麗だろうか?

「小京都・郡上八幡の市街地北部の柳町、職人町、鍛冶屋町などには城下町として栄えたころの面影が今もなお残っている。町歩きの際は、地元の人々の生活エリアにお邪魔しているという気持ちを忘れずに!」

旅の本に、こんなことが書かれていた。
そうか、こんな姿勢が気ままな旅を引き締めていくのだろう。



2006.05.01(Mon)
イチゴが実るとき

ここのところ毎日のように、採れたてのイチゴを食べている。
イチゴが実る頃は、初夏と相場が決まっているが、今日の暑さはまさしく初夏だ。
4月は、花曇りの日が多くてパッとしないが、そうした季節を5月は、容易に変えていく。
それで私たちは、季節の移り変わりを肌で感じていけるのだろう。

  不揃いのイチゴが涼し切子皿           比呂志

初夏、ガラスの器に盛られている素人作の不揃いないでたちが、何とも微笑ましい。
小振りで、少し硬めのイチゴを舌先に乗せて噛むと、これが結構甘い。
採れたてを水洗いし、そのままつまんでもいいし、ジャムにしてもいい。
甘酸っぱい香が鼻を突くと、何かを独り占めにした気分になる。

こんなことを思っている5月の始め。そうか、今日はメーデーだ。
労働組合の組織率も下降の一途だから、表向きメーデーは話題に上らない。
しかし、巷にはまだまだ熱心な人たちがいて、今年も拳骨を振り上げたのだろうか?
甘酸っぱいイチゴを齧っていた方が粋なのに、ね。

粋も野暮も一飲みにして今日も暮れていく。今夜はビールがうまいぞ!



2006.04.23(San)
おじさん図鑑

中日新聞サンデー版からお笑いを一席。

おじさんを含めた周囲の<物忘れ>は、いよいよ危ない状態になってきた。
「君はアレに似ているよね。ほら、なんといったかな、あの俳優」
「だからだれだよ?」
「ほら大昔、ワシらが子どもの時分にラジオドラマが映画化されて・・・」
「少年探偵団とか赤胴鈴之助とか?」
「違う。えーっと、女優がいたろ・・・フランス人と結婚した・・・岸恵子!」
「えーっ、岸恵子に似てるってか」
「まさか。その岸恵子と共演した・・・『君の名』だ! その主役の・・・」
もう一人が口を出す。
「佐田啓二じゃないの」
「当たり!佐田啓二だ」
「そうか、佐田啓二にオレが似ているのか」
「違う違う、その息子だ。よく映画やテレビに出る・・・何年か前に大河ドラマで武田信玄を・・・」
「ああ、いるよね。あのシュッとした二枚目」
「何という名前だっけ」
「えーと、ね」
「うーん。名前がね・・・」
「オレも顔は思い出すけどな・・・うーん」
おじさんたちは腕組みして、みんなでウーン、ウーンうなっている。
                               
                              ( エッセイスト・飛鳥圭介 おじさん図鑑より)



2006.04.15(Sat)
花の頃を過ぎて

4月も半ばになった。花の頃を過ぎて次の季節が頭を掠める。
藤、ツツジ、皐月にカキツバタや花菖蒲の見頃が目に浮かぶ。
5月の連休も近づいてきた。今年は家族で岐阜県・郡上八幡に行くことにした。
水のきれいな地である。奥美濃の隠れた名水やわき水スポットを訪ねるバスツアーがあると聞く。自然に精通したインタープリター(自然案内人)の楽しく分かりやすい解説を聞きながら、散策するのは楽しいことだろう。命の水を肌で感じてみたい。

事務所の机の上に薄紅色のランの花が置かれている。
先日、中小企業家の集まりの会で2年間勤めた地区の会長職を辞した際、仲間が“ご苦労さん会”を催してくれ、この花を記念にもらった。
淡い紅が疲れた眼にまぶしい。花を眺めていると少しクラクラしそうだ。
ゆっくりと花を愛でることができたらどんなにかいいだろう。
それができない忙しさが少々辛くはあるが、忙しいということはそれだけ人生が充実しているということだから、有難いことなのだろう。

  どの足も花より団子に行きたがる          比呂志

花より団子の時期を過ぎて、団子より花の境地へ入ったか?
しかし、酒があればすべてが暮れていくのは、あの頃と変わらない・・・・・・。



2006.04.08(Sat)
川柳七句

桜の下初めは詩人になっている

酒飲みの意思はさくらのように散る

手掴みで今日のいのちを確かめる

ほとぼりが冷めて見ている夜の花

花冷えにあすの異動をくちにせず

どの足も花より団子に行きたがる

背伸びして掴もうとする春の風



2006.04.02(San)
落語協会

社団法人落語協会のホームページを見つけた。
「本日の寄席」「定席香盤」「落語会情報」「協会概要」「落語ひろば」などのメニューが並び、落語好きには目が離せない。中でも圧巻なのは、「芸人紹介」欄。
落語協会に所属する芸人の自己PRビデオは、さながら寄席に足を運んだ気持ちにさせる。

あの頃─池袋演芸場を住処としていた時から20年の春秋が過ぎた。
およそ体裁の整わぬ建物に一昔前の遺失物が山と積まれ、地元の者からは疎んじられ、遊び者からはそしられ、一部の心ある者の誠意で態を成しているかのような池袋演芸場。
しかし、その遺失物置き場には瓦礫だけでなく、いく色にも輝く翡翠が隠れていたのだった。
堆積している土砂で素人目には見えないが、寄席にかよいなれるとそれがわかる。
その空間に通算して500時間ほど身を置くと見えてくる。

そして、瓦礫の数々がまた翡翠に変わるのが寄席である。
こんないいとこない!落語通は揃って口にするが、客が入らないのも寄席である。
あの頃の前座が、皆、真打になっている。皆、歳をとったナ。
俺だけが若い!と思うくらいの了見が噺家には必要だろう。
口跡のよくなった者、噺に磨きがかかった者、相変わらずつまらない者・・・と多彩な顔ぶれを拝みに今日もアクセスするよ。

あの頃が戻ったようで有難い!

      落語協会ホームページ
 http://www.rakugo-kyokai.or.jp/Top.aspx



2006.03.26(San)
歩行禅

昨日、中小企業家の集まりの総会が豊橋であった。
名古屋に対比される愛知県の東の雄は、ずいぶん寂れたような気がした。
この街に住んだことのない身で、“寂れた”とは無責任だが、夢のない街のように見えた。
見果てぬ夢が降っている街は、どこもキラキラしている。
人々の思いの素粒子が街中に舞っている。それは人の体内から流れ出すものだ。

学生の時分、三河湾を歩いて一周した。キラキラ光る海面を右に望みながら海沿いを歩いた。
左に一昨年廃線となった名鉄三河線の南線に赤い電車が走っているのが何度も見えた。
蒲郡、御津、小坂井、豊橋と夕日の中を歩いて行った。
豊橋の街には夢の素粒子が降っていた。人々の健やかな笑顔がいくつもあった。
それが幻であったのか、人々の心の絵模様が変わってしまったのか、今となればもう知るすべもないが・・・。

“歩行禅”という言葉を聞いた。

「車よりスピードが遅い分、視界が広がり、それまで見えなかった物がたくさん見えてきた。道端の花、きのこ、お地蔵さん、産廃の不法投棄・・・・・・よいものも悪いものも」

「歩行禅とでも言うのかな。歩いていると悟っちゃうんです。ある時ぱっと目が開いて、歩いて得たものを社会に生かしたくなる。歩くことは人生そのものです」(八ヶ岳歩こう会事務局・多賀純夫さん)

歩いていると気持ちをまとめることができる。喜怒哀楽が足裏に溶けて、土に返っていく。
そうして素直な気持ちになれるのだろう。

“歩行禅”か、そうかも知れないな!



2006.03.19(San)
落語の効用

 
このところ私は机に向かう前、決まって古今亭志ん生の落語を聴くことにしている。
 そうしたからといって別に筆がはかどるわけでもないのだけれど、志ん生を聴いていると、強
 張っていた精神の構えがほぐされるような気がする。(ジャーナリスト・野村進)

落語を毎日のように聴いている。
大抵、寝床で子守唄代わりに聴くものだから、最後まで聴かずに寝入ってしまう。
それで噺のまくらだけを覚えていて、未だ筋のわからないものも大分ある。
しかし、そんな感じがいい。野村さんが言うように、落語には、“強張っていた精神の構え”をほぐす力があって、体内に溜まったその日の心の垢を洗い流してくれている。

三遊亭円楽さんが、「笑点」に進行役として復帰する、と新聞に出ていた。
昨年秋、脳梗塞で倒れた円楽さんの早期の復帰はうれしいことだ。
固有名詞が思い出せず、まだまだこれまでのような咄嗟の切り返しは無理なようで、大喜利の司会は他のメンバーに譲るようだが、それでいい。
少しずつ仕事をこなしていけば、落語勘も戻ってくるだろう。
名人・円楽の噺が待ち遠しい。

かつて円楽、談志の両氏が1週間ほど北海道の旅に出た。
列車の中、会場、ホテルと落語談義から世界情勢、女の話まで休むひまなく語り明かした。
東京に戻ってきて円楽、弟子の楽太郎に
「談志の奴は、ありゃおしゃべりでうるせえなァ」
2、3日後その楽太郎、談志に会うと
「おまえんとこの師匠の円楽、なんだありゃよくしゃべるなァ」
楽太郎、その旅のお伴をした談志の弟子の談吉に、大変だったネと言うと、談吉いわく
「2人ともおしゃべりですからねェ」



2006.03.12(San)
川柳七句

夢のない思想余白が埋められぬ

タネ明かし椿が落ちる音を聞く

ハンケチの裏から芽吹く樹もあろう

手品師が哀愁というハトを出す

狂い咲きそんな派手には生きられぬ

白けている街に一揆がやがて来る

まじないを掛ければ美酒が溢れ出る



2006.03.05(San)
丸い耳

心がうらぶれたときは 音楽を聞くな。
空気と水と石ころぐらいしかない所へ
そっと沈黙を食べに行け! 遠くから
生きるための言葉が 谺してくるから。(清岡卓行 耳を通じて)

伊集院静著「水のうつわ」(幻冬舎文庫)を読んでいる。
読むといっても、パラパラ捲って文字を目で拾っていくだけだ。
そんないい加減な読み方が性に合っているのか、この時だけはくつろいでいられる。
本を読んでいていいことは、時折はっとする言葉に出会ったりすることだ。
「水のうつわ」の中のこんな言葉がそうだ。

「他人の話を聞いて、そこから何かを持って帰れるようになるまでには、耳がいりますよって」

「耳が」

「そうどす。耳がまるうならんとあきませんな」

「まるうに?」

「人間の耳は自分のことだけを考えているうちは、耳の格好が三角やら四角になっているらしいでっせ」

「心配おへん。今夜はええ顔やさかい。人間自信がない時が一番ええ時期どす」

「探しものを見つけようとしている時が一番いいのどすわ、人生。耳がまるうになってますさかいに・・・・」



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